「そんなわけでね? お人好しの戦士と優しい賢者は、別々の道を歩んでいったそうだ」 
「ふーん」 
「あれっ、カノンちゃん冷たくない? ずっとアリアの片思いを見守ってた身として、その反応はどうなの?」 
「あんたこそ、怒ってるよね」 
「え、どうして? なんで俺が怒るの?」 
「丸わかりなんだよ馬鹿。話し方も顔も、納得いかないって言ってるよ」 
「あはは、ごめん。……ねえカノン、お人好しって本当に馬鹿だよね」 
「馬鹿だね」 
「貴方に尽くしますとにかく優先しますって風に行動するから、今現在の自分や相手の気持ちとは離れたところにある『相手にとっての本当の幸せ』を追求するんだ。そんなもの、誰にも分かりようがないのに」 
「はあ」 
「『こんなに素敵な貴方には、私より良い人がいるんじゃないの? 私じゃ足りないんじゃないの?』ってね。そんなことばっかり考えてるから、二人で良い関係を築いていくっていう、恋人の基本であるところから遠ざかるんだよ」 
「うん」 
「そのくせ、結局のところ心の奥底では相手に依存してるんだ。自分の気持ちの行く末やあるべき形を、相手に決めてもらおうとしてるの。『絶対に貴方が良い』って言ってくれれば喜んで従いたいって心の底では思ってるくせに、『駄目』って言われたら相手のためを思って引こう、なんていうキレイな献身の形として自分の気持ちと相手との関係を締めくくろうとするわけ」 
「ほー」 
「尽くす気持ち尽くさせる気持ちっていうのは、実際のところ依存心の美化だよ。他人に寄りかかりすぎてるんだ」 
「つまり?」 
「だからフーガはアリアのため、アリアはフーガのためって風に、お互いのせいにして勝手に自己完結して失恋したような気になってるんだ。悪い言い方だとは自分でも思うけど、実際そういうことだろ?」 
「まあ、そうかもね」 
「まったく、やってられないよ。何が相手のためだ。自分が踏ん切りをつけられないだけじゃないか」 
「まったくだ」 
「一緒に生きたいって正直に言えば良いのに。百パーセントの相互理解はできないと分かってても添い遂げるところに、夫婦関係のロマンがあるわけだろ?」 
「へー」 
「どんな道を選んだって反省も後悔もあるんだから、二人一緒に踏み出してみればいいじゃん。たまに道を踏み外したり間違ったりして、泣いたり笑ったりするのもオツなもんだよ? なのにもう、あの二人ときたらクソ真面目で本当にどうしようもないよ」 
「そうだね」 
「『もっと良い人がいるだろうから』なんて馬鹿だろ。いるわけないだろ。絶対お互い後悔するよ。死ぬまでずっと後悔するって」 
「さあ、それはどうだろうね」 
「え、どういうこと? まさか後悔しないと思うの?」 
「さあね。でもあそこまでのお人好しは、これから先もずーっとお人好しだと思うよ」 




  










▶︎ もう どうなってもいい?

 はい