とある雑居ビルの二階に「lumberjack」というカフェバーがある。イタリアンと創作料理が美味であることで知られ、立地と店構えの都合で行列こそ作らないものの、熱心なリピーターをたくさん抱え繁盛していた。ティアとライトも、高校帰りや休日にここに顔を出すのが習慣のようになっている。
「いらっしゃーい!」
戸を開くと、カランカランという軽いベルと共に明るい女の声が迎えた。緑のふわふわ髪をカチューシャでまとめた、目鼻立ちのはっきりした美女である。ウェイトレス衣装に惜しみなく晒された長い足が映えている。
「こんにちは、スーザンさん」
「あ、何だ。ティアとライトか」
スーザンは向日葵のような笑みにより親しみをこめ、気楽に片手で奥の席を指す。
「ゆっくりしていってよ、この時間はみんなお喋りタイムだし」
「ありがとう」
渋い色合いの木でシックにまとまめられた店内は、昼下がりの光をたっぷり浴びて眠気を誘う温かさだった。彼らはいつも座る奥の席に腰掛け、スーザンにそれぞれ樵風パスタとオムライスを頼む。彼女がキッチンへ注文を伝えに行くのを横目で見る。今、他に客はいない。ライトは同級生に向き直った。
「で、ヒーローの方は大丈夫なの? 無理してない?」
「無理はしてない」
ティアは首を横に振る。
自分がヒーローであることは原則口外法度である。だが、彼はこの幼馴染にして一番の親友にだけは秘密を打ち上げていた。
「無理はしてない。けど」
「けど?」
「最近、不穏だ」
ライトは首を傾げる。ティアもつられるように同じ向きへ首を傾ける。
「不穏ってどうに?」
「事件も、敵も……ヒーローも」
ティアは饒舌な方ではなく、言葉が短く途切れがちになる傾向がある。しかしライトは慣れているから、その意図を的確に読み取った。
「まさか、仲間割れ? 何かよくないことに巻き込まれそうなの?」
「そうではないと思いたい」
ティアは依然としてぼんやりとした顔つきでいる。けれどその目は何かを読み取ろうとするような冴え冴えとした光を放っていた。
「だが、何か……大きなものが迫っているような」
「ヒーローは警察じゃないよね? そういうしがらみはないよね?」
緑を司るヒーローはこっくりと頷く。ライトは以前彼から聞いた話を思い出す。
「何だっけ……ルビス様? が声をかけたんだよね」
「そう」
始まりは突然だった。ある日、国家が建国の神として称えるルビス神がティアの枕元に立ったのである。起きなさい、私の可愛いティアや。貴方にはこの世の悪を討つ使命があるのです……。
「言われた場所に行ったら、他に五人いた」
「それが、ヒーローズの他のメンバーと博士?」
「うん」
それ以来彼らは女神の声の導くまま、博士の開発したアイテムと己の力を駆使して悪と呼ばれるものと戦い続けている。依頼主は神だから褒賞なんてない。彼らの仕事は犯罪者の捕縛――警察にバレてはいけないから、のすだけのして一一〇番通報して去る――から法的に良しと言えない組織との戦闘、どこから現れたとも知れない人外の怪物との戦闘と駆除など、力仕事が多い。だからやりがいはあるが、何とも体力のいる仕事だった。
「ティア」
ライトは咳払いした。何となく声が出づらかった。
「頼むから、無茶だけはしないでね」
「うん、大丈夫」
ティアは木漏れ日に似た微笑みで答える。
「俺達はきっと、みんな正義に向かってるから」
「はいよ、お待たせ」
頭上から声がした。二人はびっくりして目を上げる。ティアを数歳大人にして、全体的な雰囲気と顔立ちを鋭くしたような美青年が立っていた。彼は料理をそれぞれの前に置きながら尋ねる。
「何だ、ゲームの話か?」
「そう、そうなんですヨハンさん!」
ライトは慌てて答える。
「一緒にやってるんですけど進める方法が分からなくて」
「ほーなるほど、最近のゲームは難しいからなあ」
ヨハンは細くも凛々しい眉を持ち上げる。彼はこの店の料理人で、ウェイトレスのスーザンとは双子だった。
「脅かして悪かったな。たんと食え」
「ありがとうございます、いただきます」
高校生たちは食事を開始した。
(後書き)
夏ミカン様にリクエスト頂きました、「現代パロディで主人公交流」です。夏ミカン様宅Ⅳ主♂ティアさんとⅧ主ライトさんをお借りしました。あとうちのⅣ主二人を出しました。
現代パロディで、例のヒーローシリーズに連なる話です。
ティアさんとライトさんは普通科高校に通う二年生。十七歳。
うちのヨハンとスーザンはカフェバー経営の、多分年齢は大学生くらいです。高卒です。
何だか戦いに身をおくティアさんを案じるライトさんを書くつもりが、私設定を盛り込みすぎた気がするぞ……? 「起きなさい、起きry」は朝来様のアイディアです。ルビス様じゃなかったけど勝手に変えてしまいました、すみません。ありがとうございました。
夏ミカン様のみお持ち帰り可とさせていただきます。何か違和感ございましたら何なりとお申し付けくださいませ。この度は主人公さんをお貸しくださりありがとうございました。
そして皆様、ここまでお付き合いくださりありがとうございました。
またお会いできましたら幸いです。
(追記)要望と違ってたようなのでとりあえずただの戦隊パロディとして置いときたいと思います。あとでまとめページ作りたい。
20150221