ある平原の一角で野営をする夜、薪を囲む仲間達のところへ逆さ青髪が帰って来る。青髪、皆の輪に加わるなり叫ぶ。
「みんな、輝く息を知ってるか!?」
「何言ってんだよ。みんな使えるんだから知ってるに決まってるだろ」
「またいきなりどうなさったんですか」
ハッサンが答え、チャモロが問う。他の仲間達は彼に心配の眼差しを向ける。しかし、青髪はそれを聞いているのかいないのか、小さな本を取り出して次のように叫ぶ。
「説明しよう! 輝く息とは……」
・かがやくいき
効果:超低温で凍った大気が輝くほどの猛吹雪で、敵の身体を破壊する恐ろしい攻撃。
有効範囲:敵全体
仕様時期:戦闘中
消費MP:0
ドラゴン★×8で習得
(エニ○クス『ドラゴンクエストⅥ幻の大地 公式ガイドブック下巻●知識編』より引用、一部抜粋)
「フッ、そんなの今更だぜ」
「馬鹿野郎!」
主人公、いきなりテリーを殴る。テリー、七メートルほど吹っ飛ばされるも、頬を押さえて起き上がり抗議する。
「何しやがる!」
「こっちの台詞だ! 今更だとか抜かしてる、お前の輝く息が一番問題なんだ!」
――何だと?
全員の視線が青髪に集中する。彼は好機とばかりに本を放り投げて声を張り上げる。
「そうだ! 俺は、このパーティーに今とてもやばい問題があると考えている! その問題が、輝く息だ!」
「えー? でも誰が吐いてもダメージ一緒じゃん」
バーバラが唇を尖らせる。しかし青髪は首を横に振る。
「そうじゃない! 最近個人によって俺がダメージを受けるんだ」
「気のせいでしょ」
「たとえば」
青髪は金髪の美女を指さす。
「ミレーユの輝く息は綺麗でとてもいい。ミレーユの美しさもあって、本当に輝いてる。うっかり巻き添え喰らっても痛くないくらいに輝いてる」
「お前大丈夫か?」
ハッサンは思わず呟く。それを聞きつけたか否か、青髪はいきなり振り返り彼に向って叫ぶ。
「だがハッサン! お前のはダメだ!」
「ええ、なんで!?」
「お前最近昼飯食った後歯ぁ磨かないんだもん!」
一瞬、一同は何の関係があるのか考える。だがあることに気付いて、ああと納得する。
「食ったものの匂いがすんだよ! 酒! 焼肉! ニンニク!」
「いいだろ、腹減るだろ!」
「減らねーよくせえわ! ちゃんと磨け!」
次に、青髪はカルベローナの子を見る。
「バーバラ、お前もだ」
「えっ私も口臭い!?」
「そうじゃない、振り付けだ!」
その言葉に一同、そう言われてみればとバーバラの輝く息を思い出す。彼女は輝く息を吐く時に、感情の籠った身振り手振りをつけながら歌うのである。ありのーままのーと。
バーバラは唇を尖らせる。
「いーじゃん、みんな好きでしょ? 『ベラと雪の女王』」
「確かに面白かったけどいい加減何度も聞いてると飽きるんだよ! それにあれとっくに公演期間すぎただろうが!」
「何それー!? 名作は不滅なのよー!?」
「女王様ごっこは遊び人の時だけにしろ!」
「まあまあ、いいじゃないですか」
「何もしないで一緒に歌ってたお前が言うな!」
とりなしたアモスにリーダーは容赦なく叱りつける。しょんぼりとした戦士を見かねてチャモロが慰める。
「歌、お上手でしたよ」
「ありがとうございます……」
「……俺、チャモロのもちょっと気になることがあるんだけど」
「え、またですか?」
チャモロは怪訝そうな顔をする。青髪は神妙な面持ちで頷く。
「お前さ、砂漠で戦ってる時に何で息吐く前に眼鏡外すの?」
「眼鏡って曇るんですよね。ありません? そういうこと」
「俺視力超いいから分からねえ。で、テリー」
「な、なんだよ」
テリーは前回のこともあり、またどんな罵詈雑言や冷たい台詞を浴びせられるのかと緊張した面持ちで身構える。リーダーは眉根を寄せる。
「お前のは逆に至って良い匂いすぎて気持ち悪い。何あれミント? ちょっと匂い強い」
「小姑か!!」
テリーは思わず立ち上がって叫ぶ。
「細けえ文句ばっかつけやがって! そんなに言うならお前がやって見せろよ!」
「そうだそうだー!」
バーバラが拳を振り上げテリーに同調する。青髪は渋い顔をする。
「え? 俺はちょっと……」
「そう言えば貴方が輝く息を使ってるのって見たことないわね」
ミレーユがふと思いついたように言う。一同はざっくばらんにこれまでの戦闘を思い返してみる。確かに、リーダーが輝く息を吐いた記憶がない。
すると青髪は言った。
「俺が輝く息を使う時は、スカート穿いた可愛い女の子の前でって決めてるんだ。ほら、凍るだろあれ。だから――」
その夜、魔法都市カルベローナに次期長老候補が帰って来た。彼女は帰ってくるなり教会へ向かった。
「おや、バーバラ様。どうなさったので」
「ねえ、ついかっとなった時ってどうしたら落ち着けるのかな?」
「そうですねえ。深呼吸をしてみるとか……何かお仲間とあったのですか?」
「ううん。何もしてないけど存在自体が罪だと思う仲間がいるの」
「は、はあ……」
「何であんなのが勇者なんだろう」
神父は何も言わない。ただ黙って十字を切り、彼の大魔女と世界の無事を祈った。
(後書き)
第31回ワンライに大遅刻で参加させてもらったもの。お題は「凍える吹雪・輝く息」選択。
「彼の頭は常にハッスル」の続編というか、何というか。この天空の勇者に救われる世界ってどうなんだろうと思います。
では、ここまでお読みくださりありがとうございました。
またお会いできましたら幸いです。
20150127