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「この屋敷がおかしいのは、人間定規に過ぎるからだ」




「何故古来から在るはずの聖なる神の庭が、何故ここまで人間の庭造りの意図に沿った機能をしているんだい。人智を超越した存在が神だろう。神でなくとも、怪異というものは人の思惑通りにいかないから恐れられるんじゃないか」




「おかしいとは思ってたんだ」




「長谷部は犠牲になった審神者の一人に、『あの美しい屋敷に貴女はお似合いです』と言った。長谷部はあの家のこと自体は屋敷と呼んでいる。主じゃない。主は他にいる」




「ならばこの、独りでに獲物を呼び寄せる屋敷は何なんだ? いくら来し方の清庭とは言え、炎によって形を失っても庭の力だけで刀剣男士を操れるほどの力があるとは思えない」




「考えてみてくれよ。人喰い神域がどうしていつまでも美しい屋敷の姿を保っている必要がある?」




「長谷部の身体を使って、武力で獲物を狩ったっていいじゃないか。彼程の手練れにかなう相手もそうそういない。喰う相手には困らないだろう。屋敷を餌にして釣らなくたっていいじゃないか」




「神域にいる、糧を必要とするその『者』にとって、『屋敷』の形をまだ保たせていることには意味があるんだ」




「そもそもどうして審神者と刀剣男士ばかり狙うんだ。審神者や刀剣男士は霊性抜群かもしれないが、もっと清らかなものの集まる場所ならば他にもあるだろう。何も知らない一般人も、綺麗でも霊性豊富でもないかもしれないが、釣りやすいはず」




「何故本丸にこだわる?」




「何故審神者ばかり狙う?」




「簡単な答えがあるだろう。僕等なら、君ならばすぐ分かるだろう」




「美しい本丸の景色と思い出を保ち、糧を──刀剣男士のと審神者の命を欲しがっている、この屋敷にいるモノは」







「刀剣男士の成れの果てなんじゃないか」