「刀剣男士」という言葉が発せられるのを、待っていたかのようだった。
名を与えられた怪異は目を覚ます。己が何であったのか。どうしてこのような場所にいるのか。己を己たらしめた存在は。
主──審神者と呼ばれる存在は何処にいる?
しかし屋敷の中に人間の温もりはない。
「刀剣男士」は叫び始める。
主。主は何処に行ったのか、と。
突風に藤波が激しく泡立ち、慟哭する。
地鳴りが轟く。広大な白砂の大地が渦を巻き、溶け、白波に転じる。湧き上がった砂嵐が霞に変わる。地鳴りはたちまち潮騒に消える。
やがて揺れが収まった頃、にっかり青江は博多藤四郎の手を引き外へ出る。そしてその時、彼等は見たのである。この屋敷の真の姿──天をも暈かす朧靄を纏い大海に浮かぶ、彼岸の館の全貌を。