※臺様(梅花胡蝶)のⅧ主人公さんをお借りしています。



「何だよ、そーゆーことか。ったく脅かすなよな」
「それはこっちの台詞ですよ! 心臓に悪い……!」


 目の前にいる友人とそっくりの奴は、文字通り胸を撫で下ろしている。


 いきなり世界から忘れ去られた上に変な場所に飛ばされたと思ったら、見覚えのある奴が覚えのない話し方で話しかけてきた。そんな状況に置かれた場合目の前にいるものの正体はいくつか考えられるわけで対処も色々なわけだが、俺の場合身の安全を最優先してとりあえず剣を突きつけた。すると友人にそっくりの奴は焦って色々俺に問いかけてきた。けど、その内容がどうもおかしい。俺がアイツなら分かるだろう事柄について訊いてみても妙な答えを返しやがるし、俺がアイツなら口にするだろう答えを言ってみても、困った笑顔で自分はそんなことを言わないと主張するばかり。
 普通偽物を騙る奴は、自分が名乗る人物のフリをしようとするはずだ。ところがコイツにはそんな素振りが全く見られねえ。ただ、俺が「ソロ」かってことを尋ね、自分が「エイト」だってことを証明しようとする。
 問答を何度か繰り返して、俺はやっとある可能性に思い至った。目の前のコイツは、俺の知るアイツの平行世界にいる同一の存在の一人なんじゃねえかって。


 俺達の普段住む世界には、よく似た平行世界がいくつもあるらしい。で、そこには俺らにあたるよく似た存在がいるっていうのは前に仲間に聞いたことがあった。どうもコイツはそれなんじゃないだろうかって考えたわけだ。
 そしたらコイツも同じ可能性に行き当たったらしい。そんで剣を突きつけたまま落ち着いて色々話してみたら、やっぱコイツはアイツの平行世界にいるそっくりさんで、俺のことを俺の平行世界にいるそっくりさんかと思って話しかけたんだそうだ。


「もーあの人なら本当に斬りかねないから焦りましたよ! 見た目だけじゃなくて中身までそっくりなんですね」
「悪かったな」


 その世界の俺も用心深い性格のようだ。にしても、ファーストネームまで一緒だなんてよくできてやがる。よくある名前だから偶然なんかもしんねえが、神サマって奴はそんなに闇勢力自動駆除マシーンこと勇者が欲しいんだろうか?
 まだ収めるべきじゃねえと判断して得物から顔を上げると、アイツによく似た奴はきょとんって面でこっちを見ていた。この顔もホントよく似てるわ。


「何だよ」


 いえ、とコイツは微妙に口ごもってからにっこりする。ちょっと見これもアイツによく似てるが、よくアイツと会う奴なら違いに気付くだろう。笑みが深すぎる。


「あの人に比べて悪人っぽくないなーと思ってたんですが、やっぱりちょっと悪そうな顔つきだなあと思って」
「悪そうでもイケメンだしいいだろ?」


 そう返すと、コイツは目を真ん丸にしてから堪え切れずに噴き出した。その顔が面白かったから、つい俺は少し笑ってしまう。


「おめーの知ってる俺はこーゆーこと言わねえのかよ?」
「言いません! すっごく違和感です」


 奴はけらけらと笑っている。そんなに平行世界の俺は冗談を言わねえ野郎なのか。てっきり平行世界の同一存在ってのはてめえを完璧にモシャスしたもんを想像してたんだが、違うみてえだな。


「なら、おめえの俺とは違ぇもんとして呼んでもらった方がいいな。紛らわしいし」


 そう言って俺は自分のミドルネーム、ヨハンを名乗った。するとまだくつくつと笑っていた「エイト」に似たコイツも、居住まいを正してもとの愛想の良い笑顔を取り戻す。


「じゃあ、僕のことはアハトと呼んでください」


 了解の意を返すと、俺はずっと気になってたことを尋ねた。


「ところでアハト、ここはどこだ?」


 すると彼はふっと笑みを消した。


「それ、僕も訊こうと思ってました」
「何だよ、おめーも分かんねえのか」
「はい。さっきまで全く別の場所にいたはずなのですが……」


 俺達は今、どこかの建物の廊下にいるらしい。白壁はミルクを流したかのような滑らかさで、大理石に似ているが繋ぎ目が見当たらない。天井はかなり高い。歪みのない直線状の道はどこに続いているのか、先が全く見えなかった。
 俺は脱出呪文を口にした。しかし、何も起こらない。


「僕もさっきも試してみたのですが、何も反応がありませんでした」


 アハトは少し考えるような素振りを見せる。それから思いついたように、そう言えばまだこれを試していませんでしたと手を打つ。


「これってなんだよ?」
「ルーラ!」


 答えは詠唱だった。刹那青光と共に身体が浮き上がる。床がみるみるうちに下へ下へと押し流されて行き、俺は天を仰ぐ。まだ上は見えない。それが逆に不安になる。


「これ大丈夫かよ?」
「大丈夫ですよきっと」


 アハトは呑気にそう返す。コイツ、見た目はアイツにそっくりだが中身は違ぇみてえだな。俺は余計不安になってくる。
 上を向いて仄かに笑みを浮かべていた奴の口元が、不意に強張った。


「あれ?」


 俺も同じ方を見る。天井が見えてきていた。何やら細かい模様が描かれているらしい。目を凝らし何の模様か捉えようとする。小さな点みたいなもんで描かれてる……?
 点をよく見ようとした瞬間、俺の背筋を寒気が走り抜けた。


 ありゃ点じゃねえ。針だ!


「やばいですね」
「呑気に言ってる場合かっ!」


 天井との距離はどんどん近づいてきている。細え針かと思ってたがそんなこたぁねえ。俺達の腕を目一杯伸ばしてもあっちの方がでかい。アハトは背中の英雄の槍を引き抜いた。それを天井に刺して止めるつもりなんだろう。けどそれでいけるか?
 俺は剣を抜いて振りかざす。凍てつく波動が放たれた直後に中級爆発呪文、棘が爆発で少し欠けた。


「ギガデインは!?」
「使えます!」


 二人で同時に雷を呼び寄せる。荒れ狂う光が俺達のちょうど真上の針を粉砕した。粉々になった針の欠片から顔を庇ううちに、丸裸になった天井に叩きつけられ息が止まる。しかしお互い武器を天井に突き刺していたから、そのまま落下するなんてことにはならなかった。


「ふう、危なかったですね」


 逆さまに立つアハトがいい笑顔で言う。俺は苦笑いして安堵の溜め息を吐いた。しかし、問題はここからだ。これからどうする? 空中歩行は便利だが魔力を使う。でも他に移動ができそうにない。


「大丈夫ですよ」


 俺がその問題を口にするとアハトはそう言って、自分の槍が刺さった個所を見た。するとたちまちそこからまがまがしくも感じられる魔方陣が広がり、黒い稲妻が天井を綺麗に丸く繰り抜く。切り取られた天井が落ちていこうとしたから慌ててアハトを引っ張る。奴の目は落ちていく天井ではなく、俺を見上げた。


「結構無茶すんな。危ねーから気ぃ付けろよ」
「あ、はい」


 何となく拍子抜けしたような顔だ。それに構わず、俺はいったんアハトを出来上がったばかりの穴に放り込む。それからアハトが穴から手を伸ばして、俺を引っ張り上げた。


「怒らないんですね」


 痺れそうになっていた腕を回していると、アハトはそう呟いた。俺は少し首を傾げてから、何のことを言っているのか合点がいって頷いた。


「俺とそっくりな奴と、よっぽど仲良いんだな」


 アハトは目を丸くして、それから苦くも寂しくも見える笑みを浮かべる。


「僕はそのつもりなんですけどね」


 その時、甲高い金属音が鼓膜を引き裂いた。反射的に耳を塞いで周囲を警戒する。さっきの空間と壁の感じは似てるが、闇が濃い。しかも、廊下じゃなくて大広間のようだ。造りはシンプルだが、赤い絨毯にちりばめらて豪奢な印象である。
 大階段から何かが降りてくる。ガシャンガシャンという音、何かがきらりと光った。


「キラーマシンに似てますね」


 笑みを引っ込めたアハトが呟く。確かにその通り、降りてきたのは規則正しく列を組んで行進する機械系の魔物だった。みんな何を考えてんだか、手にした剣を打ち鳴らしている。列は階段の上まで悠に続いてるから、あれを蹴散らすのは面倒そうだ。辺りを見回すが、不思議なことにあの階段以外他の場所に通じるものがない。仕方なく俺は剣を構えた。アハトも同じ結論に達したらしく、槍をしっかり握って疾風の如く駆けだした。俺も後に続く。


 何も命を奪わずとも、どかして道を開ければいい。ついでに動きも止められたら尚いい。その方針のもと、剣を奴らの手足に向けて振り回す。道を開くのは前を行くアハトがやってくれているので、俺は動きを止めることに専念すればよかった。アハトもアイツと似て、攻撃力は高いらしい。もしかしたらアイツより上かもしれない。


 道を開くのにさして手間はかからなかったが、マシンどももただやられるだけじゃねえ。レーザーや矢が降り注ぐ中を、俺達はうまくかいくぐっていかなければならなかった。服が焦げる、矢が掠る、そんなのは気にせず突き進む。数本矢が刺さったが、致命傷にまでは至らない。回復はせず、俺達は進むことを優先した。


 不意に、前の視界に映るのがアハトの背中だけになった。マシンの群れを抜けたことを悟って、一気に後ろの大群から距離を置こうと足に力を込める。しかし足に返って来たのは空しい感触だった。


 足下の暗黒から寒風が吹く。身体の芯を気味の悪い浮遊感が撫で上げる。瞬く間も与えられず、俺達は突如開いた穴に呑み込まれた。


(後書き)
主催する「DQ主人公共同戦闘企画」のために書きました、他参加者様主人公との交流作品です。
4月18日、即ち「良(4)い(1)Ⅷ(8)主の日」または「Ⅳ(4)と一(1)緒にいるⅧ(8)主の日」ということで「梅花胡蝶」の臺様のⅧ主人公ことエイト(交流名アハト)さんをお借りして、うちのⅣ主人公ことソロと一緒に戦っていただこうとしたんですが、ページを変えていたら企画にupした頃には日付越えてました。全然かこつけられなかった。悔しいです。

お互い知ってる人に似てる別人に会って、違和感を抱く様子が書きたかったので頑張りましたが、短いしいまいちな感じに終わってしまいました。全然書ききれてないです。アハトさんの軽く明るい雰囲気の喋りを出したかったのですが、私の腕が至らないせいかシチュエーションの問題なのか満足いくように書けず。個人的に好きなタイプのⅧ主さんなので残念です。
臺様さえ許してくださるならリベンジという名の続きなんぞを書きたいくらいです。

臺様、何か違和感感じる点ございましたら、お手数おかけして申し訳ございませんがご指摘くださればありがたいです。速やかに訂正します。

では、この度は素敵な主人公さんをお貸しくださりありがとうございました。
またここまでお読みくださりありがとうございました。
またお会いできましたら幸いです。





20140418