※会話文のみ。
「よぉ」
「……また、わざわざこんなところまで。何しに来たの?」
「そりゃあ本当なら俺の台詞なんだけどな、っと」
「?」
「たまにはお前も自分の興味関心がないものも見たらどうかなと思って、他人の部屋の本棚を参考にオススメ本を上げてみましたー」
「何してんの」
「まあまあ、目を通してみろって」
『オイカワトオルファースト写真集
〜俺がキミのハートを制す〜』
アオバ城砦都市衛兵部隊隊長、オイカワトオルの初写真集。カバー裏を見ると本人のサインの上に、複数の男性らしき筆跡によるサインが重ねられている。その上に更にまた別の筆跡で「妬むなよお前ら!」と書かれている。
『泣かないでアイリーン』
アイリーンと名付けられたバンシーの生態記録。バンシーの泣き声に関する考察がまとめてある。
『何故ケントは反逆に至ったか』
貧民街の浮浪児が独裁国家を立ち上げるまで。帝王学に裏付けさせた歴史的事件の全貌。
『アリス・イン・ハンターランド』
お転婆な少女アリスが、迷い込んだ不思議の国で生き延びるために狩りの腕を磨き、トップオブハンターに輝くことになる有名な童話。内容はきわめて実戦向きで、寧ろ何故童話としてしたためられたのか謎に思われている。
『ねえウォルター、鏡をごらん』
過度の禁呪使用により自己分裂症にかかってしまった黒魔導士ウォルターの日記と、彼の介護者の記録。黒魔術を志す者に必携の訓告本。
『オベロンの妙薬』
妖精王オベロンの使用したと言われる伝説の惚れ薬の作り方を紹介しているが、レシピがめちゃくちゃだとの酷評を受ける本。しかし、実際は見る者が見れば分かる妖精界の秘薬「不死鳥の涙」のレシピを掲載している暗号文書。
『イワイズミハジメ名言集』
素人らしい手製の冊子。紐で紙を括っており、頁の日焼けの色合いがまちまちなところから察するに頁は不定期に増えているのだろう。
一頁目にはでかでかと「ボゲェ!」と書いてある。
『スン・シー兵法忘備録』
名軍師スン・シーの言葉を書き留めた、決して逃してはならない兵法の心得。
『ダヴィデの記』
上級幾何学魔法研究本。ダヴィデは幾何学魔法の祖と呼ばれている、伝説の魔法使いの名だ。
『アオバ城砦都市衛兵部隊日誌』
アオバ城砦衛兵部隊の日誌のようだ。すでに事務的な記録でいっぱいまで書き尽くされている。
『ラジュエの書』
召喚術のための必携書。天、地、魔に属する代表的な精霊と契約するための条件がまとめられた初めての本。
『カワウチ流商学の心得』
ただの一兵卒から軍部財務課の頂点に上り詰めたカワウチ氏の商業本。表紙にはメモが貼り付けられており、手書きの文字で「人生教訓が多すぎて商業の話が少ない」と殴り書きされている。
『ラベンダー・ダンの盲点』
恋の魔術に対する予防を怠ったために一生を棒に振った美女ラベンダー・ダンの後悔と怨嗟に満ちた、精神魔術に対する防衛術について記した専門書。
『オクダ魔界漂流記』
魔界を彷徨った女オクダの日記。見かけた精霊の様子を観察しながら、自分の体、精神が変化していく様子を淡々と綴る。
『ラプラスの声を聞かない』
予言の研究史。予言については誰からどのような条件でなされるか、未だに分かっていないことが多い。
『ドイ』
天使になろうとした男ドイについて、彼の関係者が語った声を集めた本。
「どうよ、興味持ちそうな本あった?」
「クロって本当、無駄なところで遊ぶよね」
「無駄ではありません。僕の友達を思う親切心からです」
「こんなの、結構みんな知ってるんじゃないの?」
「……あれ?もう分かっちゃった?」
「分かりやすいんだよ。こんな見え見えの共通点ばっかりのリスト作って」
「いやあ、ケンマは知ってるだろうけどな。あっちじゃ知らない奴の方が圧倒的に多いぜ」
「そうだろうね。そうじゃなければ、あんなに現実世界の人間たちは静かにしてない」
「…………」
「…………」
「なあケンマ。お前、本当に帰ってこないのか?」
「大丈夫だよ。俺は他の夢の世界に引きずられた人たちと違って、自分の意思でここにいる。帰る時も、自分の意思で帰れる」
「お前はそう言うけどなあ」
「ゲームもやり放題だし」
「おい」
「魔物だって、今ならそっちのネコマには攻めてこないでしょ?」
「まあ、そうだけど」
「有事の時はすぐ帰るよ」
「…………」
「それともこの世界の根源のために、クロ自身が行動を起こそうと思ってるの?」
「まさか。それはまだだ」
「なら、俺がここにいても問題ないよね。ここはよく視えるんだよ……誰が何を考えてどうしたいのかが、よく、ね」
「……わかった。でも、早く帰ってこいよ。待ってる」
「分かってる」
20190929