【刀】末世パロ⑤

◆バー「party knight」

 

 歓楽街の喧騒からやや外れた廃ビルの狭間に、洒落た店が一軒。夜闇に塗り潰された高層建築よりくすんだ漆黒の店構えは、ややモダンにすぎるようにも窺える。だが、飾り窓から漏れる暖かな黄金の光は奇抜な店の外見と調和して、華やかながら心の和らぐ不思議な魅力を店の全景に漂わせていた。

 この店の前を通る茨道の女達は皆、その暖かな輝きで瞳をうっとりと艶めかせる。反対にならず者風の男達は顔を顰める。時たま通る忙しげな仕事人達でさえ、この奇妙な店の前ではせっかちな歩調を緩めた。

 ままならぬ世に荒んだ身体、錆ゆく心。店の看板で踊る蜂蜜のネオンは、毎晩その見る者の視線を引き込むような渦巻く文字で屋号を甘く謳い、疲弊した人間を魅せる。煌々と輝き点滅する「party knight」の十一字は、まるで魔法の呪文でもかかっているかのように人目を引いた。

 しかしその晩看板の下をくぐった小柄な男は、看板には見向きもしなかった。そもそもまだなだらかな喉の線と言い、短パンから覗く太腿の白さと言い、彼はまだ男には程遠い少年としか言えぬ外見をしている。だが菫色の双眸に宿る光が理知的過ぎるせいか、或いはその細く小さな全身から漂う気配が子供にはほど遠いせいか。彼はどうも、子供と呼ぶには難しいのだった。それこそ後ろに続く煤色の髪をした背の高い男より、余程年上のように感じられてしまうのである。

 そんな少年は、黒い手袋を嵌めた手でノブを捻る。まず彼らを迎えてくれるのは賑やかなドアベルの音。次に軽快なジャズと、懐かしい声。

「いらっしゃい――おや?」

 モノトーンの調度で統一された店内の奥。カウンターの向こうに、抑えられた照明の下でも輝くような美男が佇んでいる。莞爾と微笑む端整な顔は小さく、がっしりとした広い肩幅と分厚い胸板だけを見れば相当ガタイの良い方であるはずなのに、締まった腹筋と長い脚との均整が絶妙であるためか、全くむさ苦しさを感じさせない。しかし寸分のゆるみもなく着込んだシャツと汚れ一つないウェイター衣装は、抜かりなくその恵まれた体躯から色香を引き立てている。鴉の濡れ羽の如き髪と金の瞳孔からなる対照の艶やかさ、使いようによっては痛々しさを覚えさせるに違いない眼帯の存在を自然に馴染ませているこの男は、まさに伊達男と称するに相応しかった。

「よお燭台切、邪魔するぜ」

 薬研が片手を挙げて慣れた仕草でカウンターにつき、長谷部がそれに続く。伊達男は整った目元をつと見開いていた。丸くなった瞳は、外見からは意外な程に純粋な驚きを宿している。

「長谷部君が来るだけでも珍しいけど、薬研君と二人だなんてもっと珍しいね」

「ああ、野暮用があってな」

「後から日本号の旦那も来る予定だから、承知しといてくれ」

「オーケーだよ。二人とも何飲みたい?」

「俺はいつもの。長谷部は?」

「熱燗で頼む」

「君達ね……いや、いいんだけど。別にうちは洋酒オンリーってわけじゃないからいいんだけど」

 何やらぶつぶつ言いながらも、燭台切はすぐさま迷いのない手つきで背後に居並ぶボトルを抜き取り支度を始める。

 その間に薬研は周囲の状況を窺う。好都合なことに、店内にはあまり客がいない。遠く離れたボックス席に一グループ座っているだけで、この分ならば会話に気を遣い過ぎずとも平気だろう。

「おおっ?」

 その時、背後からまた一つ懐かしい声が投げかけられた。薬研がそちらを向くと、ちょうど伸びてきた手が薬研同様周囲の観察をしていた長谷部の肩を叩いた所だった。バシンと強めの音が鳴り、長谷部が噎せる。だが声の主は気にしない。

「長谷部じゃねえかあ! 元気にしてたか!?」

「お前は相変わらず派手にやっているようだな、太鼓鐘」

 長谷部が半眼になって睨んだ頃には、既に利発な少年は蒼髪を跳ねさせて余所を見ている。快活な短刀は、大きく円らな瞳を店の反対側で給仕する色黒の美男子に注いで呼びかけた。

「おーい伽羅ぁー、長谷部が来たぜぇ? こっち来いよー」

「慣れ合うつもりはない」

 色黒の男こと大倶利伽羅は決まり文句を返す。慣れ合うつもりはないと言いながらも此方に聞こえる声量で返事をするのだから、この刀も変わらないようだ。太鼓鐘は唇を尖らせた。

「ちぇー、伽羅はしょうがねーな」

 しかしそう言いながらも、大して気にする様子は無い。また後でな、と太鼓鐘は長谷部に手を振りながら銀盆片手にさっさと大倶利伽羅のもとへ駆けて行ってしまった。

「まったく、あいつらはいつも忙しないな」

「それは君達が来てくれたからだよ」

 呆れた調子で長谷部が言う。燭台切は苦笑して訂正した。

「貞ちゃんも伽羅ちゃんも、いつも格好良く給仕してくれてるんだよ? 最近は日と時間を決めて、お客さんの前で演奏もしてくれるようになったんだ」

「そうだぜ。ありゃあなかなか見事なもんだ」

 一聴してみる価値はあるぜ、と薬研はフォローに回る。薬研は長谷部とは違い、この店の常連であるために店のことにも彼らの働きぶりにも詳しい。「party knight」は個人経営の小さなバーだが、料理人兼バーテンダーである燭台切光忠の料理と酒の腕前、ウェイターの太鼓鐘と大倶利伽羅による質の高い給仕とサービス、そしてなかなか姿を見せない敏腕オーナーの手腕により、善男善女が集まりづらい立地条件にも関わらず良い客層を得られていた。収入の方も上々だ、とオーナーが得意げに言っていたのも記憶に新しい。

(さて、そのオーナーだが)

 薬研は居並ぶボトルの影、裏方に繋がる隠し戸を横目で窺って、やはりこちらを見ていた長谷部に首を横に振ってみせる。

「鶴丸国永は、いつ帰る?」

 氷の満月を浮かべ琥珀の海を湛えたロックグラスと、慎ましい白磁の御猪口に徳利のセットをカウンターへ滑らせた燭台切に、長谷部がおもむろに問う。燭台切は微かに首を傾けて答えた。

「さあねえ。鶴さんは気紛れだからなあ。二ヶ月くらい前から音沙汰ないよ?」

「二ヶ月!?」

 長谷部は驚きからか立ち上がった。キッと藤の瞳で薬研を睨むが、そんなに責められたって困る。肩をすくめて見せると、今度は言葉で責められた。

「何が良い夜になる、だ。不在ではどうしようもないだろう!」

「おっかしいな。いち兄の話じゃあ今日って話だったんだが」

「待って、何で一期さんが鶴さんの帰る日を知ってるんだい? 普通僕達の方が先に知ってるはずだよね?」

 燭台切が食いついた。此方も、心なしか顔つきの真剣みが増している。

「この間いち兄のところに鶴丸の旦那がひょっこり顔出して、商売の話の中で今日あたり帰るって言ってたって聞いたんだ。だから今日ならいるだろうって長谷部を連れてきたんだが、違ったんだな」

「嘘でしょ……一期さんの所行くなら、何でうちには帰って来ないんだろう?」

 愕然とした後頭を抱える燭台切を見て、何だか知らないが地雷を踏んだらしいと薬研は察した。この伊達男が業務中にこうして思い悩み狼狽える姿を見せるなんて、平生では全く考えられないことなのである。

「鶴さん携帯持ってるんだから一回でも連絡くれればいいのに、この二ヶ月全く何も言ってこないんだよ? 電話にも出ないしメールしても届かないし、鶴さんが行きそうな場所をあたっても全く居所が掴めなくて――いや、でも鶴さんはいつも鶯丸さんに伝えればいいことを僕に言ったり僕に言えばいいことをにっかりさんに言づけたりにっかりさんに言えばいいことを歌仙君に言ったりするからいつものことだと思ってたけど、そんなに遠くない所にいたのに連絡を全くしないなんて――まさか遂に、遂に隣の」

「しょ、燭台切」

 本格的に狼狽え始めた燭台切に、長谷部がおろおろとしながら声をかけた。常ならば逆だろうに、珍しいこともあるものだ。薬研は一人、カウンターに腰掛けて燭台切の出してくれた酒を傾けながら彼らの様子を観察している。

長谷部が言葉に迷いながら詫びる。

「鶴丸についてはその、大変なところ事情も知らずに尋ねて申し訳なかった。俺達でも協力できることがあればやるから、代わりに今すぐ一つだけ教えてくれないか?」

「ああそんな、長谷部君は何も悪くないからいいのに。ごめんね、気を遣わせて」

 燭台切は動揺する彼の様を見て、却って落ち着いたらしかった。すぐ常通りの紳士然とした物腰を取り戻し、格好悪いところを見せちゃったなと苦笑して、まだ立ちっぱなしだった長谷部に座るよう促した。

「それで、聞きたいことって何だい?」

「お前達には直接関わりない話だとは思うのだが」

 長谷部は件のゴミ屋敷の話をした。ただし、口にしたのは屋敷の所在、事件の起こった日、そこで主の遺体が発見されたということだけである。その上で、その屋敷について何でもいいから知らないかと尋ねた。

「事件については知ってるよ。有名なゴミ屋敷でもあったからね」

 燭台切は答え、顎に手を当てて回顧する。

「でもあくまで、知ってるのはお隣としての噂話だけだからね。残念ながら力にはなれそうにない」

「そうか。ならば仕方ないな」

「あ、待って。そう言えば鶴さん、変なこと言ってた」

 肩を落としかけた長谷部は、突如はっとした風の燭台切の声に頭を跳ね上げた。

「何だ?」

「その事件が起こった後の頃だったと思うけど、にっかりさんがうちに来たんだよ」

「にっかり青江か」

 長谷部は瞠目した。にっかり青江には、まだ今世において出会えていない。

 燭台切は頷いた。

「にっかりさんは今、腕のいい御祓い屋として引っ張りだこなんだよね。霊媒師でもあるから、祓って欲しいものがある人や話したい死者がいる人に人気でね」

「何だと?」

 長谷部が薬研を窺う。薬研はその通りだと肯定した。

「あいつには俺も一度だけここで会った。どこを根城にしてるのかも掴めねえが、ここにだけはたまに来るって話だぜ」

「確かに、奴に会えれば」

「そういうことだ」

 にっかり青江の協力があれば、あの正体の知れない儀式が関わっている事件の糸口が掴めるかもしれない。薬研と長谷部は頷き合い、長谷部が燭台切に向き直った。

「それでどうした?」

「にっかりさんはそのゴミ屋敷のことで、何か聞きたいことがあったみたい。僕はちょうど接客中だったから、鶴さんと二人で話してるのをきちんとは聞けなかったんだけど」

 燭台切はここで、躊躇うように言葉を切った。そう言えば長谷部も例の事件について話した時似たような仕草を見せたことを、薬研は唐突に思い出す。

「聞こえてきた単語がこう、現代的じゃあなくてね。あとでにっかりさんが帰ってから鶴さんに何の話してたか聞こうとしたんだけど、はぐらかされちゃったから気になってたんだ」

「何が聞こえてきたんだ」

「ハンコンと、マカルカエシ」

 長谷部の顔色から血の気が失せた。その白い横顔を目にして、ああだからこの男は自分達に聞かせるのを躊躇ったのかと合点がいく。

「へぇ。ハンコンとマカルカエシ――『反魂の術』と『死反玉』か」

 薬研が自分達にも馴染む形で言いなおすと、燭台切はそうだと思うと同意した。

 反魂の術は、某古書にある西行法師の伝承で有名だろう。高野山中にて人恋しさに襲われた西行は、人骨を一通り揃えて密法の秘術で人を造ろうとした。しかし作法を間違え、会話さえ出来ない失敗作を造ってしまったという。

 一方死反玉は、古神道において饒速日命が天津神から授かった十種の神宝の一である。使者をも蘇らせるという強力な勾玉だ。

 薬研はあくまで戦場育ちの刀であるから、この二つをどういうつもりで鶴丸とにっかりが口に出したのかは分からない。だが、一般に知られるその二つの共通項と例の事件、そして彼の元へ持ち込まれた人魚の肉と思われる代物。これらを照らし合わせれば、長谷部がどうしてこの事件を追ったのかを推察することは出来る。

「なあ」

 長谷部の耳元に唇を寄せる薬研を、燭台切は訝しむように眺めている。だが薬研も長谷部も気に留めなかった。それどころか今この瞬間、店内のあらゆる音――気だるげなサックス、店員の会話、心地よいドラムの鳴動、客の囁き声、グラスのかち合う透明な響き――が、彼らの周囲から遠ざかっていた。

 此方を映す藤紫の瞳孔を見つめ、薬研は囁く。

「あんたもしかして、あの館の主は人間を造ったんじゃないかと考えてるな?」

 長谷部は黙していたが、やがて皮肉気に口の端を吊り上げた。

「お前、その察しの良さならいちいち体調を訊ねる必要はないだろう」

「ところがどっこい。生憎、そういかねえから医者って商売は成り立ってるのさ」

「ねえ、何の話を」

 燭台切の問いかけは、店の反対側から上がった悲鳴のせいで中途に途切れた。

 悲鳴の主は、ボックス席の女性だった。まだ成人を迎えたばかりと窺える彼女はよく見ると震えている。席から離れた彼女は、前に立つ少年の背に隠れるように身を縮めていた。

「おいおい兄ちゃん達、いけねーぜぇ?」

 少年こと太鼓鐘は彼女の席についている男達を見据え、歯を見せて笑った。その手は、男達の一人の手首を捉えている。

「こんなもんをお嬢さんのグラスに入れちゃあ駄目だろ」

 太鼓鐘が掴んだ腕を揺らすと、男のカッターシャツの袖口から白い物が落ちた。ひらりと揺れ落ちたのは、白い粉末の入った小袋である。それを見止めた燭台切の片目が鋭くなる。

 カッターシャツの男の向かいに座る金髪の青年が小袋を掠め取ろうとした。しかしその前に控えていた大倶利伽羅が素早く奪い取る。即座にその袋を破り、中身を小皿に撒けて鼻を近づける。

「睡眠薬だな」

「あーあ、やっぱりなあ」

 大倶利伽羅の判定を聞き、太鼓鐘は大きな溜め息を吐いた。

「兄ちゃん達さあ、男だろ? 男なら小細工しねえで、格好良く真正面から勝負しようぜ?」

「言いがかりだッ」

 金髪の青年が非難の声を上げる。彼のシルバーリングがじゃらじゃらとついた指が、太鼓鐘を指す。

「このガキが今サトシに持たせたんだ、俺達は何も悪くねえ!」

「そうだ、警察呼ぶぞ!」

 手を掴まれていないもう一人の男が言った。明らかに顔に合っていない大きさの眼鏡と跳ねすぎている黒髪パーマの癖が強すぎて、いまいち決まり切っていない。

「いや、警察いるんだが」

 隣の長谷部が小声で呟いたので、薬研は噴き出しそうになるのを懸命に堪えた。抑えた口からブフッと殺しきれなかった吐息が漏れたが、幸い事件が起きている席には届かなかったらしい。

「長谷部君」

 しかしその薬研も、燭台切の温もりの失せた声に笑いを消した。彼の片目は、先程までとは別人のような冷やかさで男達を凝視している。

「悪いんだけど、ここは僕らの縄張りだから。落とし前、つけさせてくれないかな」

「構わん」

 長谷部はすんなりと了承した。

(賢い判断だ)

 薬研は内心で頷く。長谷部は堅真面目だとよく揶揄われるが、実際のところ誰も本当の意味で彼を堅真面目だとは思っていない。へし切長谷部は元来、主命の遂行のためならば手段は選ばない男なのだ。そしてその彼にとって法制度は主命ではなく、今公安警察として名乗ることはデメリットでしか有り得ない。

 燭台切がカウンターから出た。長谷部は御猪口を傾けながら、薬研は頬杖を突き足を組んで高みの見物と決め込むことにする。

 男達はまだぎゃんぎゃんと吼えていたが、威圧感さえ覚えるほどに整った容姿をしたバーテンダーが近寄って行くと、まるでスピーカーの音量ツマミを捻られたように声がだんだんと萎んだ。燭台切は太鼓鐘の手を離させ、彼の前に立つと男達を見下ろした。

「食事中のマナーを知ってるかい?」

「は?」

 客に対するものとは思えぬ口の利き方に、一瞬男達は気色ばむ。だが燭台切が卓上のカンパリソーダを指すと、彼らは口を噤んだ。

「他人の食べ物には手を出さない。色のついたカクテルにこっそり薬を溶かして飲ませようとするなんて、人としてのマナーから外れているよ」

「てっめぇ、それが客に対する態度かよ!」

 手首を掴まれていた男ことサトシが立ち上がり、喚いた。だが燭台切は振り返ると、女性に微笑みかけた。

「君、大丈夫?」

 女性は一転して優しくなった燭台切の眼差しを受けて、恐る恐る頷いた。燭台切はにっこりと笑う。

「怖い思いをさせて悪かったね。こういう手合いには気を付けるんだよ。さあ、貞ちゃんと伽羅ちゃんは送っていってあげて」

「おい、何勝手に――」

「おっけー! じゃ、お嬢さんエスコートするぜ!」

「ふん」

 女性を囲んでいた男らが文句を言うのも無視して、太鼓鐘と大倶利伽羅はさっさと女性を連れてカウンター脇に姿を消した。裏手に回り、裏口から安全な場所まで逃がすつもりなのだろう。

 男達は追いかけようとしたが、燭台切にすぐさま押し戻されて座席に尻餅をついた。怒りで顔を真っ赤に染めた金髪が吠える。

「覚えてろ、他人様の事情に土足で踏み込んで来やがって!」

「ああ、よく覚えておくよ」

 燭台切はすっと金色の眼を細めた。女性が姿を消した途端急激に温度を無くした伊達男の表情に、何故かは分からないまでも男達は凍り付く。

「ただ君達も覚えておいた方がいいな。この店はね、ただのバーじゃないんだよ」

 燭台切は優しいな、と薬研は勝手口を見やってしみじみと思う。女性に見なくてもいい場面を見せないよう配慮し、男達に女性の前で恥をかかないようにさせてやるのだから、全くもって偉い。

 燭台切の広い背中の向こうで、男達はみみっちく身を寄せ合っている。薬研からは見えないが、燭台切はとても穏やかな、だが全く血の通っていない声で説く。

「社会には社会のマナーがある。一方で無法者には無法者の流儀がある。そしてこの歓楽街界隈では、他人の飲食物に許可なく違法な薬を盛ることは禁止されている」

「お、俺達には関係な――」

「関係あるさ。ここは歓楽街なんだから」

 男の某かがどうにか絞り出した涙交じりの反論も、すぐ潰されてしまう。燭台切は、物分かりの悪い教え子を諭す教師のような口調で窘める。

「いいかい? ここでは法は君達を守ってくれない。何て言ったって、無法者の世界なんだから。ただ無法者社会には、法より重い流儀がある。そしてここの流儀を作っているのは、この店だ」

 男達は怯えてこそいるが、何を言われているのか未だ理解できないようである。滑らかで艶のある男の声が、懇切丁寧に言葉を継ぎ足す。

「分かりやすく言い換えようか。この歓楽街の頂点に立つのは、この店のオーナー――極道伊達組組長、鶴丸国永だ」

 それから最後に、相手の顔色の変化から己の犯した罪への理解度を確かめようとするかの如く、ゆったりと言った。

「そしてその彼が不在の今、ここの流儀を司り制裁を行うのはこの僕。伊達組若頭、燭台切光忠になるわけだよ」

 これが、刑執行の合図となった。

 男達の無様な悲鳴を聞きながら、いい社会勉強だがツマミが欲しいなと隣で長谷部が呟く。その通りだと薬研も思ったので、カウンターに入り込んでバックヤードから「party knight」お手製イカの燻製を一杯引っ張り出してきた。先日燭台切が作った新商品である。炙り加減と弾力が程よくて、酒が進む美味さなのだ。薬研がゲソをしゃぶりながら長谷部にも一本差し出すと、彼も美味いなとまた次の一本に手を伸ばした。

 薬研と長谷部が勝手にカウンターを探り、イカ丸々一杯で熱燗を二本、焼酎を一本干した頃、騒がしかった店内が静かになった。燭台切は気絶した男達を放り一旦カウンターに戻って来て、薬研と長谷部の狼藉の跡を見て止めるとあっ、と声を上げて眉を吊り上げた。

「そのイカ食べるなら声かけて欲しかったなあ。折角それに合う新しいお酒を紹介しようと思ってたのに!」

「すまん。指導中に水を差しては悪いと思ってな」

「美味かったぜ」

「君達ねえ」

 伊達男は、仕方ないなあと溜め息を吐く。つい先刻までの若頭ぶりが嘘のようである。

「もう、この始末が終わるまでちょっと待っててくれよ? オススメのお酒を紹介するまで、まだ二杯目に手を付けたら駄目だからね」

「おう」

 薬研は軽く返事をして、荒縄を持ってきた燭台切が男達を手際よく縛るのを眺めながら話しかける。

「最近やっと静かになったと思ってたら、とんだ馬鹿野郎が来たなあ」

「そうなんだよ。ここには余所の組の鉄砲隊か交渉員くらいしか騒動起こす人間は来ないはずなんだけど、極稀にこういう素人が来るんだよね」

 伊達組は現在、都内任侠連中の間でも注目度ナンバーワンの組なのである。組長である鶴丸国永は世間の荒波渡りの上手い策略家兼神出鬼没の情報屋としても知られ、その下に連なる子分達は皆美形の腕利き揃いと来ている。規模の小さな組ではあるが、その筋の通って人情味溢れる流儀に惹かれる者は多く、配下となりたがる者や組織が続々と増え、今ではこの歓楽街一帯を彼等の支配下に置いていた。

「無法者の流儀は法も情も血も夢もない分、破った者への制裁は厳しいんだけど、カタギの人たちってそれを意外と知らないんだよね。困っちゃうよ」

 世間話をしながら、男達を荒縄で雁字搦めに縛った燭台切は三人をいっぺんに両肩に担ぐ。その巻き方を見て、薬研はああ海に行くんだなと思った。脚をセメントで固められていない分、まだマシだろう。だが先程痛めつけられた部位は大分染みるかもしれない。

「店番頼むよ」

「分かった」

 長谷部が出ていこうとする燭台切を見もせずに答える。伊達男は器用に三人を担いだままドアノブを捻った。扉が開き、晩秋の寒々しさが室内に吹きすさぶ。正面に向き直った燭台切は、直後叫んだ。

「なっ、何これぇ!?」

 

 



 

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ダイキリミッツターダがイケメン過ぎて(私の文章力的に書くのが)辛い。

あと思いの外話が長引いててツライ。

ツライしか最近言ってない。楽しいんだよ!でもね、頭と意欲に筆が追いつかなくてツ――ピーヒョロロロロロ――

 

 

ああそうそう、花●槍めっちゃ「迷」の方で可愛かったし号さんと杵がやっぱり打ち解けてるところが随所に見受けられてて(何かあると号さんが杵さんに先に振るところとか、ちょっと言い合いしたりとか)東西最高だなって思ったし、蜻蛉さんの「え、俺もか?」って言う時の戸惑い七割迷惑三割っぽそうな顔に非常に悶えました。あとにっかりは今週も美人でした。とてもヨカッタデス。

 

花三槍可愛かったんで、この後末世パロで全く違う槍書きます。いいんだよ書きたくなったから。花槍みたいな可愛さはないと思うけどいいんだよ書きたくなったから。

 

ちなみに勿論杵さんむっちゃん博多くんぶしニキの歌うEDはもう買いました。当たり前。

あとは三槍の歌が発売されれば未練はない…!