現パロ「山奥へ行こう!②」

「いいか。俺達は課で旅行に来ている、神秘省勤務の公務員だ。課は特殊能力関連。分かってるだろうが守秘義務は守れ。能力はなるべく使うな。それ以外は自由にしろ。いいな? じゃあ解散」

 フーガ課長がそう言って、俺達はひとまず女性陣と別れて男部屋に荷物を置きに行った。俺達が借りたジパング式の宿は優しい白木造りの三階建てで、俺達の部屋はそのうちの二階にあった。男女の部屋は隣り合っているが一緒ではない。

 サタルさんは部屋に荷物を置くなりどこかへ行ってしまった。それを見てすぐ課長がテングに「追え」と命じた。珍しくピエロ衣装を解いて、浴衣に名前通り天狗の面をつけたテングは陽気にその命に従ってすぐにいなくなってしまった。

「サタルさん、どこ行ったんですか?」

 俺は窓際の御座に腰掛ける課長に聞く。課長は顎で窓の外をしゃくった。外を覗いてみる。豊かな森に囲まれた他のジパング式家屋やログハウスが一望できて、いい景色だ。近くに立つ樹木の濃い茶の肌、冬を越えて萌えたつ葉の明るさに俺はほうと息を吐く。

「あっ見てください課長、リスですよ!」

「おお、本当だな……ってそっちじゃない。あっちだ」

 近くの枝に据えられた餌場に遊びに来ていたリスをしっかり携帯の写真に収めてから、俺は課長の指が指す方を見る。ちょうど向かいの隣に、広い庭を持つ立派な一軒建てがある。あれも見たところ宿なんだろう。

「あっちってあの家ですか?」

「正確には、その前にいるあの子な」

 自慢じゃないが、俺は目が良い。それがどこからが特殊能力でどこまでが俺の地なのか知らないが、視力検査では広い平原に住むアフリカの民並みだと評判である。

 その俺の目は、課長が指すものをはっきり捉えた。黒いつやつやした髪色の小柄な女性だ。黒目がちの大きな瞳、きりりと細い眉、小さな鼻と唇……ん?

「あの子、キラナに似てないっすか」

「妹だ」

「え?」

 フーガ課長を改めて見るが、至って真面目な顔でまだあの女性の方を眺めていた。その横顔は疲れてるっていうかあれだな。仕方ないな、って時の顔だなこれは。

「しかも、アイツのコレだ」

「は……え、まさか、ええ!?」

 素っ頓狂な声を上げてしまった。フーガ課長が立ててるのは間違いなく小指だ。でも、だって、まさかそんな。ええ!?

「班長って彼女いたんですか!」

「いる」

「え、だってあの人……ええ!?」

「ねえねえ、花札しよー?」

 俺は飛び上がった。ちょうど、外に立つ女性とそっくり同じ顔をした同僚が部屋に上がり込んできていた。薄いタンポポ色の浴衣が、子供のような背の割に成熟した身体を引き立てている。その後ろにはアリアちゃんとルネ姐さんが続いている。アリアちゃんは長い髪を団子に結って藤色の浴衣を身に纏い、清楚かつ可憐さを増した微笑みを浮かべる。ルネさんは黒い生地に彼岸花を咲かせて、極道の妻みたいだ。いや、カッコいいし婀娜っぽくてさすが姐さん。

 うちの女性陣は、いつも班長が言うように美人ぞろいだ。俺はそのうちの一番幼そうな顔をまじまじと見つめる。彼女は不思議そうに首を傾げた。

「なに?」

「キラナ、お前、妹がその……」

「いるよ。私より先に行ったし、今頃着いてるんじゃないかなあ」

 キラナは俺達の傍まで歩み寄ると外を見て、やっぱりと声を漏らした。

「だから班長、さっさと行ったわけね。相変わらずお熱いわあ」

「大好きなのね、キラナの妹さんのこと」

「え、みんな知ってたのかよ!?」

 姐さんもアリアもしたり顔なのを見て、俺は裏切られた気分だった。アリアちゃんがきょとんとして口に手を当てる。

「ええ、随分前から。今回のだって、班長はキラナの妹さんが他の男性に誘われて旅行に行くのが心配で、自分も監視するために課の旅行を企画したんでしょう?」

 開いた口が塞がらないとは、このことだろう。

 同時に何で俺だけ、と思ってしまい悲しいような気分になってきて落ち込む。

「あらあら、鈍いところがスランちゃんのいいところじゃない。ねえキラナ?」

 ルネ姐さんがフォローともつかないことを言う。そんなこと聞かないでください、余計落ち込むこと言われるのがいいところなんで。

「そうね。頭は悪くないくせにどうしてこんな鈍いのか分からないけど、班長よりはマシかな」

 キラナが眉を片方持ち上げて肩を竦めるけど、喜んでいいのか班長にすみませんと言うべきなのか、俺には分からない。

「カノン……我が妹ながらどうしてあんなのと付き合ってられるのか、私には理解できないよ」

 キラナが憐れむような目で窓の外、遠くに佇む片割れを見る。いよいよ何も言えなくなった俺は、ただ浴衣から零れる彼女のうなじが綺麗だと思った。

「ね、それより花札しよう? UNOとトランプもあるよ」

「フーガさんもやりましょう」

「ああ。ここでいいのか?」

 課長が訊ねるとアリアちゃんが嬉しそうに頷く。キラナがさっさと部屋の中央へ戻り、他の皆も続いて腰を下ろす。俺もそれにならう。

 もう少ししたら温泉に行こうとルネさんが提案して、キラナとアリアちゃんが賛成する。課長は少し微笑みながら札を切り、俺はみんなの顔を見回す。

 事情は置いとくとして、みんな楽しそうだしまあいいか。

 それから三時間、俺達はめいっぱいカードゲームを楽しんだ。

 

 

 

温泉に遊びにいく現パロ、うちのⅢキャラお招きいただいたんで参加させてもらいます。ありがとうございます。