異次元戦隊DQヒーローズというのがいる。彼らはそれぞれ赤、青、緑、黄、黒のスーツを纏い覆面を被った五人組であり、誰かが困った時に颯爽と現れ事件を解決する。そして気が付くと、風のように消え去っている。人々はその存在を半ば都市伝説と思いながら生活している。だが誰かの悲鳴が響く度、パトカーが通り過ぎる度、彼らは鮮やかな五色の人々を求めて辺りを見回す。そして彼らを見つけた者は狂喜し、叫ぶのである。
「来た! 私達のヒーローだ!」
首都のそのオフィスビル街を歩く人は、各々仕事のことで頭がいっぱいになっている。だから街路に並ぶビルがどこの会社のものなんていちいち立ち止まって確認したり、覗き込んだりなんてしない。
そのおかげで、かの廃墟じみた古ビルは正体を晒さずにいた。
「やっぱり、ブラックの奴怪しいと思わないか?」
古ビルの五階、四人の男達が一室に集まっている。そう言うのは顔の周りで切りそろえた茶髪が特徴的な好青年。身に纏うスーツは黄色。普段は大学で健全なキャンパスライフを送る学生で、本名をノアというらしい。学部は栄養何ちゃら科だったか。
「ブラックって、どの?」
彼に向って尋ねる緑髪の美少年ティアは、髪と同じ色のスーツ。整ったかんばせは大人びているが浮かぶ表情はそれにしてはややぼんやりとしており、実際彼はまだ高校生なのだと聞く。
「本物のブラックだよ」
「代理じゃなくて?」
「元祖だろ? そんなに怪しいか?」
きょとんとするのは真っ青な髪と正反対な真っ赤な衣装の男、レック。レッドと呼ばれる彼は一応今そろっている四人の中では年長で、そのくせかなりの自由人。何せ本業はミュージシャンでピアノ調律師だ。わけが分からない。
「なあブルー」
「俺には分からないよ」
大体、何でブルーの色が一番似合わない自分に聞くのだろう。
アレンは普段は苦手な勉強に頭を抱え、部活と運動関係は人一倍活躍する中学三年生だった。それが何の因果か、無償の人助けを生業とするヒーローなんてやる羽目になってしまっている。
――そう。お察しの通り、この四人は伝説の異次元戦隊なのである。
しかしその空気は和やかなものとは言い難い。原因は、この場に欠けた一色にあった。
「だって、この間の銀行強盗の見た?」
イエローは眉根を寄せて指を振る。レッドとグリーンはううんと首を横に振る。
「俺達が駆けつけた時、客として平然と座ってた」
「え、マジで?」
レッドが目を丸くする。ヒーローにとって、事件が起こったら変身と人助けは必須である。それをしないというのは考えられない。
イエローはそう、とレッドに詰め寄る。
「俺達が来たらさり気なく騒ぎに紛れていなくなったみたい。怪しくねえ?」
「そう言えば。俺も見た」
グリーンがのんびりとした口調で言う。
「先月の立てこもり事件、見物人の中に紛れてた」
「嘘だろ!?」
「本当。しっかり見た」
レッドは目を剥く。二度頷いて、イエローは腕を組む。
「もしかしてブラックの奴、本当は俺達の敵なんじゃ……」
「いや! アイツ確かに顔怖いし無愛想だし金に目がないけど、そんな悪いことやるような奴じゃないだろ! なあ!?」
「うーん」
アレンは眉間に力を込めたまま黙ってしまう。
正式ブラックことアレフは、去年職場体験でお世話になった人でもある。だが正直なところ、彼の身辺は近ごろ怪しい。どう怪しいとは言えないのだが、野生の勘だけは鋭いと言われるアレンの勘が騒いでいる。加えて本人より何より、ブラックの代理の一人である従兄のアレフレッドの様子がどうもおかしいのだ。ブラックのことを聞くと変な顔をする。アレフレッドはブラックとの付き合いが長く、おまけに嘘を吐くのが下手だ。これは何かあるに違いない。
「やっほー! みんな元気ぃ?」
陽気な声とともに部屋の扉が開け放たれた。腕に大きな地球儀やら古めかしい箱を抱えたスタイル抜群の美女である。なびく白衣を見てレッドが博士と呟く。彼女こそ、ヒーローの活動を支援する博士だった。
「なあ、博士。元祖ブラックって今何してんの?」
「そんなに気になるなら、実際に見て確かめればいいんじゃない?」
博士は平然と言い、くるくると回していた地球儀の一点を指した。アフリカ南端、希望峰。
「いやいや、無理無理」
ヒーローたちは声を揃えた。
青い小鳥のさえずりでまたまたとんでもない話が始まったので。ひとまずこんな感じで……。
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