どこからか芳しい匂いがする。鼻を利かせてみると剣を交える連中の風上、黒髪の女と緑髪の男の二人が囲む釜から何やら丸いものがぽこぽこと生まれ出ていた。何だあれは。マメか?
「なに!? マメ? マメ?」
縫うような剣の連撃の最中に身を置いているのに美味そうな匂いを嗅ぎつけたらしく、わーいと叫びながらバカが戦線離脱して駆けて来ようとする。しかし完全に駆け出す前に鎧の方に足をかけられてつっこけた。
「お前が先はおかしいだろう」
「そうだよ。て言うかお前は絶対料理に近づくな」
マフラーの男が同調する。レックはごろりと仰向けになって、かと思いきや腹筋だけで勢いよく飛び起きた。
「何でだよーケチ! 早いもん勝ちだろ!」
唇を尖らせて後転しながら蹴りを突き出す。ブーツが二人の顔の間を掠めて半円を描き直立で着地。さらに身体を半回転させてすたこらと釜を目指す。
「おっ……お前なあ!」
悪びれない奴に二人は怒る。マフラーの方が一足飛びにレックの前に立ちはだかり、双剣を構え直した。
「えーどけよ!」
「せっかくの料理をまた不意にされてたまるかっ」
マフラーはガンガン攻め込む。レックはおっわっほっなどと間抜けな声を漏らしながらラミアスで受ける。せせこましい足の動きを封じるように鎧が剣を繰り出す。すげえな。二人して上手いことアイツの動きを止めてる。俺もこんな場合じゃなかったら手合せしてもらいてえんだけど。
「一回落ち着いて下がってろクソガキ」
鎧の兄さんが言う。まったくだ、もっと言ってやってくれ。
だが追い詰められてるっていうのに、逆にレックの目は子犬みたいに輝いてきてる。あーまずい。テンション上がってる。
「ボミオス!」
突如、三人の動きがゆるくなった。詠唱した主は釜を緑髪の奴に持たせてのろのろと振り返る連中に歩み寄る。
「はい順番ねー! ほら早く手出して」
「おーまーえー」
「そーんーなーひーどーいー」
男達は全く非難の感じられない緩慢な口調で責める。だが彼女の方は全く気にせずのろい掌を出させてその上にちょいちょいとマメを置いて行く。
まあ確かにボミオスしといて早くしろは無理だな。こういう時補助呪文使いは強いと思う。
俺は自分の手にあるものを見下ろす。とりあえず、コイツをぶちまけるような羽目にならなくて良かった。
「そこのゴーグル君、ご飯いらないの?」
「いや、いる」
まだらくも糸を袋に入れ、俺は足を踏み出した。
主人公共闘企画リレー小説、三巡目八番目です。稲野さんから「ハツラツマメ」頂きました。
やっとご飯……カナー?
次は夏ミカンさんへ。回すアイテムは「まだらくも糸」です。
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