「お帰りなさいませ、旦那様」

 

 ノアが自分の部屋に帰って来ると、六人の少年達が直立で出迎えて口々にそう言った。

 

「え……?」

「さあおかけになってください、お飲物は何がよろしいですか?」

「あの、みんなどうしたの?」

 

 ノアの問いかけに答えず、キュロスがつかつかと歩み寄りその手を引いて椅子に座らせる。その脇を、すぐに少年達が囲んだ。キュロスが畳みかけるように尋ねる。

 

「いつものようにコーヒー、紅茶、ココア、オレンジジュース、グレープフルーツジュース、アップルジュースなどご用意しております。それともアルコールがよろしいですか?」

「いや、アルコールはちょっと……」

「ではローズヒップティーのホットでよろしいでしょうか?」

 

 さっきたくさん提示した選択肢は何だったんだ。

 強く疑問に思ったものの、じゃあお願いしますと頭を下げるとアクアが部屋を出ていった。

 

「旦那様、まず先日の作戦についてご報告します」

 

 ハインが一礼して、ノアが口を挟む暇もなく喋り始める。

 

「昨夜のギャリング組によるポルトリンク奇襲阻止の作戦ですが、無事商船に被害をもたらさず任務を達成できました。旦那様の仰った通り、連中は深夜一時の人々が寝静まった頃に動き出しました。船を壊そうとしておりましたので、こちらからも手配しておいた人員を総動員して対処、撃退しました。これで困った商人達が奴らの息のかかった船を使うことも、陸路にまわって嵌められることもないでしょう」

「ですが、予想していたより苦戦しましたため、怪我人が多く出ております」

 

 ネオが残念そうに首を横に振る。

 

「ただいま馴染みの僧侶に治療をお願いしていますが、今日一日は二十人程度しか動けません。申し訳ございません」

「ネオ……?」

 

 ノアが恐る恐る彼の名を口にするも、ネオが返事をする前にセルジュが頭を勢いよく下げた。

 

「申し訳ございません旦那様ッ! 私の力不足です!」

「お待ちなさいセルジュさん」

 

 驚いて肩を跳ねることしかできなかったノアの代わりに、キュロスがたしなめる。

 

「その件については、後ほどゆっくりと。今は旦那様にこの後のスケジュールについてご確認頂くのが先――」

「ちょっ、ちょっと待って! 待ってよ!」

 

 これ以上わけのわからないまま話を進められては堪らないと、ノアは声を張り上げた。一同の視線が彼に集まる。

 

「どうかなさいましたか、旦那様」

「旦那様って何!? みんな何のこと言ってるんだ!?」

「旦那様、どうされたのです……?」

 

 ライトが、不安そうに口を押さえた。特に真面目で裏表のない彼まで、とノアはショックを受ける。その隙に周囲は勝手にざわめいた。

 

「一体これはどうしたことなんです?」

「そう言えば、昨日の一味の中に魔術師が」

「ソイツが何かしたっていうのか!」

「分からない。でも妙なことを言っていた」

「何を言っていたんだ」

「大変だ!」

 

 するとそこへ、扉を叩きつけてアクアが飛び込んできた。

 

「どうしたんだアクア」

「ヌルスケがしくじった!」

 

 何ッ!?  一同は緊張の面持ちで身を乗り出す。しかしノアだけは、ヌルスケって誰だと頭を捻った。

 

「このままだとドンホセの一味が殴り込んでくるかもしれませんっ!」

「ドンホセだと……ッ?」

 

 少年達は各々、腕やら懐やらに隠し持っていたナイフを取り出す。ノアもつられて、慌てて懐を漁る。

 ――誰かが、ぷぷっと噴き出した。

 

「っはははもうダメ!」

 

 堪え切れない、とハインの笑いが弾けた。すると他のメンバーも、それが伝染したかのように笑い始めた。

 

「ヌルスケって誰なんですか!」

 

 ネオが破顔しながら尋ねる。

 

「アクア、ヌルスケって! よりによって!」

 

 セルジュは腹を抱えている。

 

「ごめんねノア、びっくりした?」

 

 微笑みながら、ライトが両手を合わせて申し訳なさそうに小首を傾げた。

 その中心にいながら取り残されたノアは、目を白黒させながら「なに、なに……?」と周囲をきょときょとと見回している。

 

「実は、さっき俺達がよくやるいきなり始まるごっこ遊びの話をしてたんだ」

「ごっこ遊び?」

 

 ハインの説明を受け継いで、セルジュが具体的に掘り下げる。

 

「たとえばいきなりマフィアのファミリーの真似をして会話を続けてみたり、商人同士の飲み会の真似をしてみたり、王族の集いごっこをやってみたりとかね」

「で、楽しそうだねって話になって、僕達もやってみたいなって思ったんだ。ノアがちょうど席をはずしてたから、ノアを中心に設定してみてどういう反応をするか見てみようかってことに」

 

 アクアがそう言って、悪戯っぽく唇で弧を描く。

 

「ちなみに今のは、表向きは豊かな良家の旦那様、裏の顔は夜の世界でも暗躍する秘密結社のドンっていう設定だよ」

「複雑すぎるだろ!」

 

 そんなの無理だとノアは頭を抱えた。

 

 

 

(後書き)

夏ミカン様よりリクエスト頂きました。「夏ミカン様宅ⅦからⅩ主と拙宅Ⅶ、Ⅷ、Ⅸ主によるギャグ」ということで、男のみで書かせてもらいました。

拙宅流突然始まる演劇遊びに付き合ってもらいました。乗り切るコツはノリです。

 

では、リクエストありがとうございました。夏ミカン様のみ、お持ち帰りは可とさせて頂きます。短いものですが、よろしければお納めください。

ここまでお付き合いくださりありがとうございました。

またお会いできましたら幸いです。

 

 

 

20141116